20年以上 入れ歯にしないためにインプラント治療を続けて来られた 
奈良橋のOさん
 Oさんとは 20年以上のお付き合いです。
 お餅を食べるのが大好き。凄い力で食べるので 歯の根を割ったり、
 歯周病の進行が早く 歯を失ってしまうことがあります。
 もちろん 1ヶ月〜6ヶ月の定期検診で 歯槽膿漏の処置はずっと行ってきました。
毎日しっかり歯磨きを行い、歯間ブラシも丁寧に使っています。
 それでも現実は ご覧の通り そこら中で問題が生じ歯を失うことがあるのです。
歯周病の治療は プラークコントロールだけでなく 力のコントロールも必要です。

ブラキシズム
歯ぎしり 食いしばり タッピング 無意識に行われ 強大な力がかかる
普通でない咀嚼運動のことです。


 歯を抜かざるを得なくなり抜きますと通常は入れ歯やブリッジで修復します、
 Oさんは 「入れ歯では お餅が食べにくい」、とのことで インプラント治療を
 希望され 出来る限りインプラント治療を行い現在に至っています。

 幸運なことに 歯を失っても インプラントを植立できる骨が残る 骨の快復力があります。
 ただし 治療はそんなに簡単ではありませんでした。
 今、振り返ると壮絶な歴史です。

 インプラント治療ができる方が この様に歯を失ったことにたいして リカバーしてこられた歴史です。
オルソパントモグラフィー と言うレントゲン主体での説明となります。

  果たして 私が Oさんの歯の健康 食生活 ひいてはお体の健康にどれだけ貢献したか?
自問します。 0さんの負担が如何に大変だったか思い出されます。
本の様に分厚いカルテを見ると こちらが感謝しなければなりません。



1985年から来院してくださっているOさんの
レントゲン写真です。オルソパントモグラフィーと
呼びます。

画面の左が患者さんの右側。

右左端が 顎関節が見え 真ん中の上が
お鼻です。

金属は白く 根の中に白い線が見えるのは
根管治療を行った(神経を取った)歯です。

私たち歯科医はこの写真を見て 多くの情報を
得ます。
およそ20年前、私が診療を担当させていただいて間もない
頃です。
上顎の奥歯は 左右ともに 6番(6才臼歯)
7番(第二大臼歯)がありません。
45678番と 長いブリッジ。
8番 つまり親知らずは 元々退化傾向にある歯で
無い方もいます。よって根が細く 他の第臼歯より
弱い歯です。
その親知らずをブリッジの土台として使っているので
力が多くかかり リスクは非常に高い状態です。。

既に残念なことに 根のまわりの骨と根の間が黒くなっていて
骨が溶けて動揺し 危険な状態です。
果たして上顎左右の奥歯のブリッジは あと
あと何年持たせられるでしょうか?
歯間ブラシを使ってもらい、かみ合わせも定期的に
調整しました。

しかし。。。


約6年後の1993年8月、左の親知らずがグラグラに
なり残すことができなくなりました。抜歯に至りました。
1994年4月、今度は右の親知らずが腫れ
やむを得ず抜歯になりました。
ブリッジは4.5番(第一 第二小臼歯)の奥で
切断してあります。
上顎には大臼歯が無くなり 入れ歯を造って
使ってもらいましたが 装着感 硬い者が食べられない
お餅は思うとおりに食べられない!と訴えられました。

そこで 骨が直ってから(最低でも6ヶ月)インプラント
の治療を開始しました。
左のレントゲンは 最初に行った 左上の大臼歯部に
1本植立した時の画像です。
上顎の骨は 下顎よりインプラントに不利な場合が
多いです。
まず 骨の密度が低い。上顎は頭蓋骨と同じで
脳と同様に成長する柔らかい骨です。
それに対し 下顎は 体の骨と同種類で
第二次成長期に一緒に成長する硬い骨です。

画像ではインプラントの先が黒い部分に出ていますが
これは 上顎洞と言う空洞で あまり多く突き出すこと
はできません。

ここの骨の厚さが足りなくて インプラントが出来ない
方が多いのです。
ここの骨を厚くしたり 底上げをする手術をすることも
ありますが 基本的に個人差が大きく 骨の厚さが
足りないと インプラントをお薦めしないことが多いです。

私は基本的にリスクの高いインプラント治療は行いません。
リスクが高くても行う場合は、患者さんと充分に協議し
てから行うことはあります。

今まで上顎で植立して充分な骨の結合が得られなかった
ことは3例ほどあります。その時は当然治療費は頂戴しません。
患者さんにはそのかわり他の治療に変更することを
納得していただいています。。
上顎にインプラントブリッジを入れて4年後。

Oさんはお餅が食べられて 入れ歯の違和感が少なく
喜んでくださっています。

お餅をかみ切るには 最低でも10kg以上の力が
必要です。考えてみてください。小さな歯や入れ歯に
10kgもかけなければならないのです。

お米の袋1袋を乗せても痛くない 長持ちする
これが お餅や硬いお肉を食べることが出来る歯の最低の
条件です。
他のページでも書きましたが インプラントは反対側の
健康な歯の80%くらいの力をかけられます。
40kgくらい咬合力がある方は 30kg以上かけられますので
基本的には何でも咬めます。(逆に天然の歯のセンサーが
ありませんので 力がかかりすぎることがあります。)

入れ歯で硬いお肉が食べられないのは 入れ歯が10kg
以下しか力をかけられないからなのです。
(入れ歯の咬合力はいつでも測定できますので 要望が
 ある方は おっしゃってください)

インプラントと入れ歯の咬む力は決定的に違います。

ちなみに私は噛む力が強く 奥歯に120kg以上かけ
られます。が、そんな無理を毎日すると 必ず歯が割れるか
根が折れるか歯周病で歯がグラグラになります。

インプラントを植立して成功したのに抜くことになるのは
まず 殆どが 過大な咬合力による骨の破壊が原因
です。
wo 4年間一見問題なく使えて来ましたが、
レントゲンでは既に問題を色々と提示しています。

ご覧の通り 左下の歯は 過大な力で割れていて
根の周囲が黒くなっています。

根に土台が刺してありますが それが 斧で木を割る
様に力がかかってしまっています。

右下は 上から2枚目の写真と比べてみてください。
根の長さが明らかに短くなっています。

これは 根の先の病気(根尖病巣)が原因でも
ありますが 一番の原因は力が強いのが主因だと
思っています。
どちらも ブリッジの土台として使っていることが
負担を増大させているのです。
これを見ても 歯を抜かないことがどんなに大切か
分かっていただけると思います。

同年 割れた左下の5番(第二小臼歯)は抜かざるを
得なく 抜歯させていただきました。
これは2000年12月のレントゲンです。

5番6番の部分にインプラントを植立してあります。
充分に食べられるそうですが 今度は右側が
不調だそうです。
 
画像の左下。歯で言えば右下のブリッジを
ご覧ください。4番 6番共に 1998年の時より
さらに悪化しています。

右下の4番は根が殆ど無くなり 割れそうです。

何回も歯周病の手術を行ったり かみ合わせの調整
もしました。

その前に画像右側 左下の7番 第二大臼歯
の分岐部(根と根の間)が黒くなっています。
これは 第二大臼歯に顕著に多い やっかいな
歯周病で ここの炎症が強くなると とても痛くて
咬めません。
翌年残念ながら 抜くことになりました。
左下の7番にはインプラントが入っています。
左は3本目。食事は充分にできます。

問題は 画像の左 右下の4番です。
割れてから 3年頑張りました。

4番は割れてしまっても直ぐに抜かず 割れた半分で
何とか持たせたてきました。
できるだけのことは やってきました。

それでも 割れた歯は残すことがほぼ不可能なので
抜くことになるのです・・・

いよいよ右下の第一小臼歯(緑の○で囲まれている
歯)が痛みが強く残せなくなりました。
この年 その奥の第二大臼歯と共に
抜かせていただきました。
根が吸収し始めてから10年 よく持ったと思います。
それから1年半のレントゲン写真です。
右下には3本インプラントが植立されています。

私が治療を担当させてもらってから およそ20年

最初にインプラントを植立させてもらってから
10年経過しています。


黄色い四角の部分をご覧ください。
10年の間に 上顎のブリッジは一度全て
作り直しています。左上の3番(犬歯)もありません。

陶器(ポーセレンメタルボンドクラウン)で造った
ブリッジも割れたり 歯が割れたりしました。

私の患者さんの中でも もっとも治療が大がかり
手がかっかった患者さんのお一人です。

患者さんは 私のこと気遣ってか
「よく食べられるよ」と言ってくださいます。


ご覧になった皆様 治療内容の把握は難しいと
思いますが どう感じられましたか?

「こんなに治療することになるんだったら 
 管理や治療が悪かったからでは?」と思われるかも
しれません。

本来この様に治療が大変にならないように 歯周病の治療
管理を行い 予防をしてきています。
しかし強大な力で噛む方の歯根は この様に割れたり、吸収して
しまうことがあるのです。
そして20年の歳月はこの様な変化をもたらすくらい
永いと言えます。

*一生持つ歯の治療*
その難しさがお分かりいただけると思います。

私ができることは 治療したインプラントが
できるだけ永い間使えて 患者さんの食生活や、
健康のクオリティーを維持し続けっれるように サポートすること
だと思っています。



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